[Kanon]今さら沢渡真琴という少女について(中編)

承前 (前編)

謎(2) 沢渡真琴の死体はどこへ行ったのか?

 真琴シナリオのクライマックス、ものみの丘の二人だけの結婚式。その後、沢渡真琴は主人公の腕に抱かれたまま、息絶える。
 ここで問題である。真琴の死体はどこに行ったのだろうか。

 おそらくは、人魚姫が泡となって消えたように、溶けるように消えていった。そんなイメージを持っている人が多いと思う。
 たしかに、TVアニメ版のKanonでは、第10話「冬の花火」で沢渡真琴はものみの丘に向かう途中、相沢祐一の背から光の粒々となり空中に溶けて消え、後には相沢祐一が買ってやった鈴だけが残される。
 だが、ゲーム本編では、沢渡真琴の体は消えたとはどこにも書かれていないのだ。しかも、明確に死んだとも書かれてはいない。
 ゲーム中で示されているのは、沢渡真琴が主人公の言葉に反応しなくなり、彼女の手が力尽きて地面に落ちるシーンだけである。これだけでは、この時点で沢渡真琴が死んだかどうかさえ分からない。単に、眠っただけとも取れる。

 とはいえ、「消えます。初めからいなかったかのように」という天野美汐の言葉通り、沢渡真琴の体は溶けるように消えた、と取るのが自然である。
 また、もし、溶けるように消えたのであれば、前編で示した沢渡真琴≠妖狐説に対する有力な反証になるだろう。
 だが、うがった見方をすれば、天野美汐のこの言葉は、プレーヤーの解釈をミスリードするライターのトラップという可能性すら考えられる。

 では、沢渡真琴の体が消えなかったとしたら、どうだろうか。

 沢渡真琴の体が消えない場合は、さらに二通りのケースに分けられる。
 一つは沢渡真琴が死んだケース、もう一つは実は沢渡真琴は死んだわけではなく眠っただけ、あるいは仮死状態というケースである。

 順番は逆になるが、後者のケースは考えにくい。このケースでは、エピローグ時点で沢渡真琴はまだ生きている可能性が高い。というよりそうでなければあまり意味は無い。エピローグまでに死んだのだとすると、前者のケースに収束するからだ。だが、エピローグ時点でまだ生きているとすれば、エピローグにおける主人公の言動と整合を取ることは無理ではないが、かなり難しい。主人公が、ただ寝ているだけの沢渡真琴を死んだものと勘違いしている壮絶なボケをかましたというのであれば別だが。

 「やっと見つけた……」
 「だれだよ、お前?」
 少女ががばっと毛布を振り払う。
 「まっ真琴!? お前、死んだはずじゃ!?」
 「冬眠したあたしを放り出していった恨みーっ!! 覚悟ーっ!!」
 「とっ冬眠!?」

 バカなことを考えてしまった。余談だが、狐は冬眠しない。話を元に戻す。

 一方、前者のケース、つまり、沢渡真琴は死んだが死体は消えなかったケース。このケースはいささか困ったことになると考えられる。
 何しろ、沢渡真琴は身元が不明なのだ。
 死体を持ち帰れば、家主の水瀬秋子も処分に困るだろう。

 「わっ、お母さん。このジャムどうしたのっ!?」
 翌日、久しぶりの学校から帰ってくると、ダイニングテーブルの上に、オレンジ色の例のジャムの瓶が山と積まれていた。
 「材料が昨日やっと手に入ったの。作るのに丸一日かかっちゃったわ」
 材料……いやな予感が広がる。
 「あの……秋子さん」
 「はい、何ですか?」
 「……このジャムの材料って何ですか?」
 「企業秘密です」

 再び話を戻す。まともに考えれば、火葬か土葬ということになるが、どちらにせよ、沢渡真琴が身元不明である以上、その死体は葬る前に警察に引き渡されることになるだろう。当然、司法解剖がなされるだろうし、死亡状況について取り調べもあると思われる。客観的に見たら、主人公は重病人を医師の許可なく真冬の雪山に連れ出して死亡させたのだから、彼の行動は過失致死の罪に問われる可能性がある。また、水瀬秋子も沢渡真琴の事実上の保護者なのだから、保護責任放棄の罪に問われる可能性があるのではないだろうか。病院に連れて行かずに病状が悪化するのを見逃したという一点でも、彼女を罪に問うのは十分だろう。
 とは言っても、警察に死体を引き渡さないわけにもいくまい。主人公なら、死体を持ち帰らずに、そのまま勝手にものみの丘に埋めてしまいそうな行動に走りそうな気もするが、当然、これは死体遺棄であって、罪状はさらに追加されることになる。それどころか、死体が発見されれば、殺して埋められたと警察が解釈することは間違いない。
 もし、ゲーム中に、「連れて帰る」「埋める」の選択肢があったとしたら、完全犯罪をもくろむつもりでない限り、「埋める」を選択することはお勧めできない。

 なお、死んだ後、キツネの姿に戻ることも考えられるが、その場合は、埋めようが連れて帰ろうが問題は無い──ものみの丘が私有地なら埋めると問題があるが──。ただ、自治体に頼んで、回収してもらうとゴミとして処分されるため、それだけは止めてあげたい。

 議論が変な方向に行ったが、結論としては、沢渡真琴の死体はやはりかき消すように消えたか、あるいは死後、キツネの姿に戻ったと考えるのが無難なようである。
 では、なぜ、その描写がゲーム中に無いのか。
 その理由としては、不要だから省いたというのが一つ考えられる。天野美汐の言葉により、沢渡真琴の体の消失が示唆されているため、具体的な描写は省略したのではないかということである。おそらく、これが消極的理由であろう。
 だが、より積極的な理由としては、おそらくはシナリオに多様な解釈を残すために具体的な描写を意図的に省略した。それが理由と考える。例えば、謎(1)で示した沢渡真琴≠妖狐説の解釈の可能性を封殺してしまわないためではないだろうか。

 なお、蛇足になるが、死体が残る描写があると、以降の謎(3)で示す沢渡真琴復活の可能性が消えるとも考えられるが、実は、それによって彼女の帰還の可能性が消えることはない。彼女の復活自体、超常的なものと考えれば、死体の有無は彼女の復活に何も関係ないのだ。そう、ものみの丘に埋めた真琴が土の中からぼこっと手を出して…………失礼。今のことは忘れて欲しい。


 この項、さらに続く。

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